子どもの自立と家族の役割 〜不登校・引きこもりの問題から〜
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はじめに
  
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私が、千葉県教育委員会東葛飾地方教育センターにおいて、教育相談員という立場で、主に不登校・引きこもりに悩む父兄からの相談に係わる中で、気づいたことのひとつに、不登校児童・生徒の性格的特徴とその母親および父親の性格的特徴について、いくつかの共通点が見られたことと、今日、各家庭の中から、父性の影響力の低下と父親の存在感がまったく感じられない家庭が多数存在していることであった。
これらの家庭では、子どもの問題に対して母親がほとんどひとりで係わっていることが多く、面接に来られた母親は疲れきっていたのが常であった。
不登校・引きこもりのケースに対しては、家族療法の視点から父母・三世代同居の場合は祖父母を支援してゆくことで、その家庭環境、個々の家庭の雰囲気に変化が生じ、やがてIP(問題を抱えている子ども)にも大きな変化が起きて来るように思える。
何年か後になって考えれば、子どもの不登校・引きこもりという問題を通じて、これまでの夫婦関係・嫁姑関係・親子関係が改善してゆくことのきっかけともなり、一見マイナスとも思える不登校・引きこもりという問題提起により、このことから家族メンバーが大きく成長することも十分に考えられるのではないでしょうか。 |
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父性と家族
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登校拒否が問題になりだした時期は、60 年代後半から70 年代後半の高度経済成長期にあたる。父親が家庭を犠牲にして、会社に忠誠を誓い、企業戦士として日本企業復興の担い手となったころと一致している。
急速に高い経済成長を成し遂げ、生活水準が上昇するに伴い、教育熱が高まり始めた時期でもある。人々の当面の欲望は満たされ、確かに物質的には恵まれたが、精神的な豊かさからは、程遠く、住みにくい環境をつくり出した。
急激な高度経済成長は、人間関係まで合理化しプロセスよりも結果を優先した。折りしも少子化・核家族化は能力主義に拍車をかけ、早期教育、偏差値偏重教育を生み出した。さらに、IT
革命はテレビやテレビゲームのバーチャル世界を誕生させ、ひとりで遊ぶこどもを作っていった。
しかも、登校拒否世代の先端はすでに、30 歳代も後半になり、社会の中間層になっている。父親が家庭よりも会社を重要視、仕事に埋没している間に大きな変化が起こり、父親不在の家庭では夫とコミニュケーションのとれない母親が、その空白を埋めるべく溺愛による母子密着化が進んでしまった。
その結果、理性や社会性を持たないこどもが多く育ってしまったのである。父性と母性がバランスを失ったことで、自己抑制が利かずに社会関係・人間関係が築けない青少年が増え続けている。
近年の感情と行動とが短絡した粗暴きわまりない凶悪な事件や増え続けている児童虐待も、父性喪失を無視して語ることはできないと思われる。
家庭内別居、離婚、単身赴任など父親不在の家族は、今後ともますます増えることが、考えられる。
しかし、そうした家庭のこどもがすべて、問題を抱えるわけではない。指摘すべき点は、一緒に暮らしている父親の頼りない存在にある。父親が単身赴任であっても、家族の努力で父親像がこどもの心の中に存在していれば、問題はおきないであろう。つまり、重要な点は、夫にとって妻がどういう存在であるのか、また、妻にとって夫がどういう存在であるかということが問題の核心であり、夫婦の精神的結びつきの強さが問われているのではないだろうか。 |

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ひきこもりとその家族の特徴
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「引き籠もる」という言葉は「閉じこもる」という言葉と同義語で、「退いて内にこもる」という意味である。
世間の目や人の目、親の目を避けて、逃げ道のないところに自らを追い詰める。そうすれば、人間関係で嫌な思いをしたり、人に傷つけられたり、人を傷つけずに済む。もちろん、いじめに逢うこともない。
また、周りの評価を気にしたり、無理に人に合わせなくても済むことになり、当然、疲れることもない日常生活が始まる。
世間の目、人の目は、世間体という親の目のことである。子供は親の目を気にしながら生きていくことになる。駄目人間のレッテルを貼られた子供は、その強迫観念から抜け出すことは、とても難しくて自己肯定感はほとんどもてなくなるのが常のようである。
ひきこもり・不登校の性格的特徴について
- 人の目を絶えず気にして、人からどのように評価されているのかが、気がか りで気持ちが休まらない。
- 幼児期や学童期に、わがままをいう、だだをこねるといった自己主張をしてこなかった。
- 親の評価が怖いので、いつも親の立場を考えて生きてきてしまった。
- 子供らしさや天真爛漫なところがなく、いたずらも悪ふざけもしていない。
- 親の監視のもとで、悪さをするとか仮病を使ってずる休みをするとか、というずるいことはまったくしてこなかった。
ひきこもり・不登校の父親の特徴について
- 自分自身も父親との接触が少なく、子供とどのように向きあってよいかがわからない。
- 性格は几帳面で真面目でやさしい、仕事人間であり、冗談を言って人を笑わせるとか、家族で一緒に出かけたり、行動することもない。
- 順序だてて、理性的にものを言うことが苦手であり、子供をしつけることや教え導くことが出来ない。
ひきこもり・不登校の母親の特徴について
- 甘えられずに育ってきたために、遠慮がちで、人にものを頼んだり、甘えたりすることがとても苦手である。
- 真面目で几帳面で、とても頑張り屋さんである。
- 心配性で、口うるさくて、命令口調で人を動かそうとする。
- 自分自身も親に従順な生き方をしてきたので、子供には支配的になりやすい。
夫婦としては、喧嘩もしないが仲がよいというわけでもない、子供のことで真剣に話しあうこともなく、真剣に衝突もしない家庭が多く見られる。 |

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自己肯定感と親の対応
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ひきこもりや不登校児童は、警戒心が強い、対人恐怖がでるなど、表れ方には個人差があるが、人に対して安心感をもてない、自己肯定感がもてないという点は共通しているところである。
子供は、母親から愛されるという経験を通して人間に対する安心感・信頼感が育まれる。家庭が崩壊していたり、夫婦喧嘩ばかりしているような家庭の子供は絶えず怯えや不安抱いて育つこととなる。
また、波風をたてないようにと表面だけ合わせている仮面夫婦の場合も、子供は同じように不安をつのらせていく。
不安定な家族関係のなかで、親に甘えたり、無邪気にふるまうなど、子供の時代に子供らしく生きられなかった人間は、自己肯定感もなく、自信も持つことが出来ずに「人と違っていいんだ」「自分は自分でいい」と自分を肯定できない。
ありのままの自分を認めることが社会や人とのつながりを確立する第一歩であるから、自分を肯定できないひとは、人や社会との接触に恐怖心を抱きやすい。そして、防御という形で自分の部屋の中に逃げ場を求めて、自己肯定感が育つまで引きこもることとなる。
子供は生まれてから、親から丸ごと受け止めてもらうことがとても大切なことであり、乳児期、幼児期、学童期と育つ過程で「君は尊い存在であり、両親にとって大切な存在である」ということを親からの言葉と態度から記憶として残ることとなる。
それがないと子供は自分を自己肯定することは困難である。
両親に大切に育てられた子供は、自愛の精神をもつことができるし、両親が自分に与えてくれた愛を、子供はしっかりと受け止めて、与えられたその愛にふさわしい自己を確立することができる。
人間は、愛されることによって、かわいがられることによってのみ、自分は大切で貴い存在であるということに、気づくことが出来るのである。
本来、子供はそれさえ手にしてしまえば、少々の逆境にもビクともしなくなります。親に愛されているという自覚が「生きる強さ」に変わるのである。
自己肯定感をもつには、「自分は自分でいいんだ。人と違っていていいんだ」と自分を肯定することからはじめることが大切であり、自己肯定が出来るとやがて、周囲のひとともコミニュケーションがとれるようになる。
それには、まず第一に親自身が自己肯定感をもつことである。 |

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信じることと見守ること
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不登校・引きこもりは、対応を誤り、こじらせてしまわない限りは、時間とともに解決の方向に動き出します。対応を誤らないということは、引きこもっているなかで、一番苦しくて辛い思いをしているのは子ども自身であるということに親が気づいてあげることです。
子どもに対しては、両親と周りの家族メンバーは次のことを注意してほしいいと考えます。
- いつでも信じて見守り、子どもの気持ちを温かく受けとめるように努める。(姿勢を子どもの側に向けて傾聴してあげる)
- 余計な質問はしないで、親がどれくらい子どものことを想っているのか親の想いを伝えてあげる。(愛情を伝える)
- さりげなく放っておいてあげる(放任とは違う)
以上のようなことから、子どもが不登校・引きこもりに対して罪悪感や自己嫌悪を乗り越えて、親に愛されていることが実感できると自分は自分でよいという自己肯定につながり、やがて自信をもって他者と係わることができるようになる。
内なる自分と外の自分との折り合いをどうつけていくのか。これは、不登校・引きこもりに限らず、誰もが直面する問題です。
外との係わりを閉ざし、自分の内面を見つめているこの時間を充電の期間または踏み出すための準備期間として、自分探しを始めた子どもが自分らしさに自信をもって、再び社会に飛び出してゆくまで、親は長い目で見守ることがいちばんの愛情表現であると考えます。 |

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明るい家庭の構築と父親の役割
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親の存在は、子供たちにとって太陽のような存在であり、子供は暖かい太陽のもとで、その恵みを受けてすくすくと成長する。子供は、暖かい家庭の雰囲気が大好きなのである。
反対に、家庭の雰囲気が暗くて冷たいと感じられるとき、子供は心身ともに不健康になりやすいと考えられる。(問題提起をする)
夫婦間の楽しいコミニュケーションと会話を維持し続けることで、夫婦間の精神的な満足は、親だけでなく、このような親の姿を見ることで子供の精神的安定感は増し、健康的発達につながってゆくことができる。
明るく楽しく暖かい雰囲気を備えた家庭には、安心感と自己肯定感が満ちているので、問題は起こりにくく、家庭内では横の関係である夫婦と縦の関係である親子のコミニュケーションが保たれていると、家族メンバーの誰かに若干の変化が起こった場合にも気づくことが可能である。
このような家庭では、問題を早期に発見し、早期に解決へと導くことができるのである。
キーワードは明るくて暖かい、思いやりのある家庭環境にある。
例えば、思春期・青年期の子供が自立の時期において、多くの経験のなかで、様々なつまづき、傷つき、挫折等の社会の困難や苦難に出会ったときなどに、人生の大先輩である父親が、高い視点から話をするのではなく、子供の視点で、かつての青年であった父親から若き日の失敗した経験の話や、挫折からいかにして立ち直ることができたのか等の辛くて苦しかった思春期・青年期時代の経験を話してあげることが、どのくらい若年者である人生経験の少ない子供たちに勇気と元気をプレゼントすることになるのかは、計り知れないものがある。
まさしく、この場面こそ父親の出番であると考える。
また、子供から見てもまぶしい存在であり、尊敬する存在でもある父親が、とても身近な対象として位置づけられることにもなるであろう。 |

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